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「サイドウェイ」30代未婚男子、これをみずしてなにを見る。 [映画系]

サイドウェイ 特別編

サイドウェイ 特別編

  • 出版社/メーカー: 20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン
  • 発売日: 2005/07/07
  • メディア: DVD
結婚って、あるいは人生の伴侶とはいったいなんなのか、とは、誰しも考えたことのある命題のひとつに違いない。未婚既婚問わず。あるいは自分の人生ってなんだったんだろう、とか。もう年をとりたくないな、と思う瞬間や若いころはよかったな、と苦笑したりすることもあるだろう。本来、内省と反省と自責の間には暗くて深い川が流れているはずなのだが、だいたい相関関係というか、内省→自省→自責という手順になってしまうようだ。ナット・キング・コールも歌っている。「振り返れば見えてくる。過去の、あやまちが。やり直せるものなら、やり直したい」

この映画は、国語教師をやりつつ小説家を目指すハゲ気味のおっさん“マイルス”(演じるはポール・ジアマッティ。鬱気味が高じて被害妄想にまで発展している様が泣かせる)が親友の二流俳優で女好きの能天気なおっさん“ジャック”(トーマス・ヘイデン・チャーチはこの演技でアカデミー助演男優賞にノミネート。むべなるかな。)の婚約を祝い、一週間後に結婚を控えた土曜日、独身最後の日々をマンキツさせるべくワイナリーを巡る旅に出た、その道中一週間の物語である。(監督:アレクサンダー・ペイン「アバウト・シュミット」)

小説が出版されるかもしれないマイルス(ハゲ気味)+来週にはいいとこのお嬢さんと結婚予定のジャック(女好き)というまったく交差しない二人の期待を乗せて車はすすみ、ワイナリーをたずねひたすらワインに淫する…はず。だが、ワイン好きなのは実はマイルスだけで、ジャックは正直呑めればいい。どっちかというと道中で知り合う女と最後の週末をどう過ごすか、その数に命かけているような有様。マイルスは離婚の傷をひきずっていて、ジャックのように気軽に女とはよろしくできない。レストランで旧知のいい女マヤ(ヴァージニア・マドセン)と再会し、彼女が離婚した身であることを知っても、そして魅力的な彼女が自分に気があることを知りつつも、手出しできない。じくじくする駄目男マイルスが前妻が再婚すると知って荒れているときも、もう一人の駄目男ジャックはマヤの親友(サンドラ・オー。ペイン監督夫人っていうか、アカデミー賞のときあんなに仲よさそうだったにもかかわらず離婚しちったよ。)とセックスすることを忘れない。結婚することを隠している嫌なヤツなのに、ジャックのなんと魅力的なことよ。マイルスも徐々にマヤと親密になっていくが、あるとき、ふとジャックが結婚することをマヤに漏らしてしまい、激怒したマヤは去り、ジャックは女に逆襲され鼻の骨を折られてしまう。それでも懲りないジャック。一週間は過ぎ、ジャックは無事(?)式に臨む。マイルスはジャックの結婚式で、幸せそうな前妻を見、そして…。

この映画がすごいのは鬱的要素満載なのに、陰の要素が画面上からは感じられないということ。徹底したコメディとなっている。おっさんたち二人はどちらもいい年していながら、先行きが不透明で不安定。マイルスは小説の出版を断られ続け、ジャックも俳優としてイマイチぱっとしないテレビ俳優(アメリカではテレビと映画の間にはマリアナ海溝ぐらいの断絶がある)として展望の見えない立場にいるし。それでも珍道中というか、その無鉄砲な明るさゆえにある種の切実な切なさを感じる。やんちゃなおっさんたちは可愛らしいが哀切である。特にいいのがジャックを演じるトーマス・ヘイデン・チャーチ。フルチン全開でゴルフ場を走り回るなんて鬱的素因から考えればかなり発狂率が高いが、彼の本質が底抜けに能天気なために、見ているこちら側が眉間にしわがよったりすることがない。そういや女優男優問わず脇役も丸出し率高し。まあある意味マイルスも丸裸になっているのと同じ状況(精神的に)だが。
 
とにかくおっさんが(いろんな意味で)裸になる映画といえるかもしれない。それがとても爽快で痛快だ。人生、年取るにつれマルダシになることが少なくなってくる。「若いころはよかった」などと愚痴ってしまってそのこと自体にまた落ち込んだり。そんな後ろ向きレイドバックな守りの姿勢に「NO」と豪快に笑うおっさんたち。大人にならなきゃわからない楽しさってあるんだぜベイベー。そして挫折を知り人生の機微を理解し、主人公たちにそっとよりそう女の年輪が好ましい。明確なハッピーエンドもなく、でてくるのはトウのたった人間ばっかりだけれども、しみじみ臓腑に染み渡るようにいい映画だと思う。それはこの映画から受け取る人生への肯定したイメージ、つまり「年とることも悪くない」というメッセージが画面上に横溢しているからだろう。これがなんともいえず心地よい。下り坂にはいって、足掻いてもいいしあきらめて落ち込んでもいい。それでも忘れちゃいけないのは、年をとったらとったなりの味わいがある、ってこと。この映画の中で盛んに出てくるワインのようにそれは芳醇で馨しい薫りをはなつ。苦味が甘さを引き立てるように、ハゲようがおっさんになろうがいいではないか。その味わいを知っているかどうかがよい伴侶、人生のパートナーを見つけられるかどうかにつながって来ると私は思う。なんだか自分が肯定されたようなすがすがしい気持ちになることができる。これはそういう映画。

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