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男のハードボイルド講座【どらン猫小鉄】 [漫画系]

じゃりン子チエ (番外篇)

じゃりン子チエ (番外篇)

  • 作者: はるき 悦巳
  • 出版社/メーカー: 双葉社
  • 発売日: 1997/08
  • メディア: 文庫

知ってる方も知らない方も、皆様初めまして。

当ブログを運営します「る」と申します。本来別のHNでせこせことエロ駄文を記しておるのですが、今回、Direction編集部サマからこのような場をいただきまして、レビュー部分を独立させることとなりました。主にこのブログではサブカルチャーな本、漫画、映画などを中心としたレビューとなり、知らなくても損はしないが、知っていれば確実に『漢度』アップ、ウェイ・トゥ・ザ・イイ顔のオヤジへエニシング・マスト・ゴーオンな(テキトウ)ネタをさっくりオススメしていきたいと存じます。えげつない文章を読みたければコチラ。まったりと大人な雰囲気であれこれ勝手な感想を読みたければコチラ、と何卒よろしくお願い申し上げます。かしこ。

と終わるわけにはいかないので、来るべき第一回と致しまして「男のハードボイルド講座」と題して「どらン猫小鉄奮戦記」を取り上げる次第。まあハードボイルド講座なんて大上段から振りかぶったところで、大いに眠ったとか眠らないとか、サヨナラが永かったとか、あるいは童貞どもの拙い悩みに「ソープへ行け」と一喝される作家の本なんかは実は読んだことないのです。てへ。内藤陳センセイ的なニュアンス「ハードボイドドだど」ということでひとつ、どうも。

今回とりあげる「どらン猫小鉄奮戦記」はあの「じゃりン子チエ」の番外編をまとめたもの、スピンオフ作品である。「じゃりン子チエ」という漫画自体、既に古典の域に達している感があり、テツ、チエという名前をだした時点でアニメでの西川のりおと中山千夏のやりとりを即座に思い浮かべる方も多いのではないだろうか。本編については私などが取り上げる以前に既に研究会などもあるようだから、特にここでは触れない。(まあ知らないヒトの為に若干触れると、主人公チエは小学生でありながら、働かずにひがな博打の明け暮れとなっている父親“テツ”を尻目にホルモン屋を切り盛りしている『自称日本一忙しい少女』。チエとテツをめぐりナニワならではの厚い人情劇が繰り広げられる。関西人の常識?とも称される、その大阪濃度のきわめて高い内容とナニワ下町人情話で構成されている物語でつとに有名)今回は彼らではなく、脇で活躍する猫たちをメーンにした単行本をあえて取り上げたい。これは脇役が主人公となった番外編を集めただけの作品集と斬り捨ててしまうには、あまりにも惜しい秀作だから。

「じゃりン子チエ」の主人公であるチエちゃんが、ふとしたことから飼ったのが、この小鉄という猫。眉間にある三日月型の傷跡が、天下御免の向こう傷とばかりに、猫ではあるのだけれども、掃除もすれば金勘定もするスーパーキャットであったりする。首のマフラーがポイントのトラ猫ジュニアはその友達ではあるが、彼の父親であるアントニオ(アントニオの息子だからジュニアという安直な名前。そのあっさりさ加減に作者の思い入れの強さがよく表れている)は小鉄との決闘の際必殺技タマつぶし(おそらくご想像通りの技)を食らってしまい、それがきっかけに気が弱くなり死んでしまったという因縁を持つ。この番外編は基本的に上記二人?を中心にして展開されている。

もともとの「じゃりン子チエ」が連続ドラマでありつつも、基盤としては一話完結形式で、その作品世界へ入り込みやすいのと同様に、この「どらン猫小鉄」も、じゃりン子チエの世界観に触れたことのない初見の人でもすっと物語に溶け込めるようになっている。このあたりの柔軟性、間口の広さ、懐の大きさがはるき悦巳の真骨頂であるといえよう。

で、この「じゃりン子チエ」がナニワ人情喜劇に見せかけて「ハードボイドド」なニュアンス満載であることはいろんな人が指摘していると思うけれども、そのエキスというか汁というかそのあたりの「漢」を凝縮させたものが実はあの小鉄であると思うのは、私だけではあるまい。いみじくも劇中でジュニアの口を通して語られる、

「おまえはここにくるまで流れモンやったろ おまけに与太と関わりもって それに自分のことはあまり話したがらないのさ どこからともなく現れるような奴 どことなくヤクザっぽうてそれでどこか冷たそうで」(引用部分:第七話ジュニアの初恋後編)

という小鉄像なぞ、ハードボイルド主人公のある種のステロタイプとも言える。かっこいいなあ猫だけど。

だけれども。この猫である、ということが最大の武器であり免罪符でもあるのであって。もし生身の人間の話なら、この作者なら恥ずかしくて(そして読者するこちら側も)とても“やれた”もんではないだろう。ある評論家の言葉を借りれば「赤木圭一郎が墓場から甦って」きかねない。今更渡り鳥にギター持たせても、ねえ。

しかし猫に姿を借りたこの「ハードボイドド」な男たちの姿の潔さはなんだろう。オスたちは「男とは…」と語りあい、『男』を目指す。なぜならば彼らがオスだから。その問答無用さが潔さを呼ぶ。特に「第八話山の中のあいつ」は上質の掌編小説のようだ。男の中の男、石のこぶし、ファイティングマシーンと異名をとった小鉄とそれに憧れながらもどこか反発してしまうジュニアの織りなす日々は「お前ちょっと自分を見失のうとるんとちゃうか」「自分てなんや」(第二話スカーフの秘密)と、転びつ惑いつとまどいつつ、それでも明るい明日があるのだ。第七話ジュニアの初恋後編での〆台詞なんて、どんなイカした作家が堅ゆで卵作ったンかっていうぐらいカッコいい。

「ワシかてタンクローちゃんなんて呼ばれたことが… 好きな女(ヒト)からそお呼ばれる意味があとになって分かるものなのさ」

なんつーか、どこのフィリップ・マーロゥの台詞かと思うような(マーロゥは関西人だったということでタノム)、こんな名台詞の連続にどうかシビレて堪能してほしい。真っ正直に漢の文字を背中に背負うことの意味を身をもって体現している小鉄の古さがいまはとても懐かしく思える。こういう男ってたまんないよねえ。オスにしてもメスにしても。

今回の作品はかなり淡々とした日常エピソードを扱っているのだが、本来の小鉄ものはもっと殺伐と発狂している。それは「どらン猫小鉄」という単行本を読めば一目瞭然なのだが…残念、この小鉄シリーズの中での最高傑作である“なぜ小鉄は月輪の雷蔵と呼ばれ九州に銅像が建つハメになったか”のエピソードが展開されている単行本が現在絶賛絶版中となっている。復刊ドットコムで現在復刊に向けて投票を受け付けているので、この本を読み、さらに小鉄のハードボイドドワールドを堪能したくなったムキは是非投票して欲しい。私も投票しましたぜ、旦那。


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コメント 8

きりきりととと

さよならは「永い」でなく「長い」だなw
by きりきりととと (2005-11-29 21:31) 

る

ご指摘ありがとう。とりあえず訂正せずに晒しておきますw
by (2005-12-01 10:26) 

M

<ご挨拶>
はじめまして。
Direction編集スタッフのMと言います。
このたびはレビューを書いていただくことになり、有難うございます。
これからも、どうぞよろしく御願いします。
by M (2005-12-01 17:01) 

る

Mさま
このような場を与えてくださり、誠にありがとうございます。
こちらこそよろしくお願い致します。
by (2005-12-01 19:07) 

へー八郎

毎度おおきに。
いやー同感です。
最近老眼が出始めたわたくしと致しましてはフォントサイズを中くらいにして下さるととっても助かるんですが、フォントサイズがでかくなると見た目的によくないかしら・・・('◇')ゞ
by へー八郎 (2005-12-01 22:59) 

る

すみません。私が近視なモノで、ついついノートの顔を近づけておりまして…。フォントを中に変更しました。見やすくなったら幸いっす。
by (2005-12-01 23:27) 

へー八郎

有難うございましたf(^_^;)
拝見しやすくて助かりますヽ(^o^)丿
by へー八郎 (2005-12-03 00:30) 

る

いえいえーこれからもよろしくー
by (2005-12-11 22:34) 

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